AmazonPharmacyはGoodRxの脅威になるのか

某インフルエンサーのツイッターのリツイートから暴落してたGoodRxを買いました。ただ、ビジネスモデルとか詳しく調べる前に買ったので、改めて調べてみました。特に、Amazon Pharmacyの影響に絞って。

長期で持つにはやはりビジネスモデルの理解は欠かせず、最終的に成長するだろうという見込みがあるから持ち続けられます。そういう意味で、長期で持つか多少上がったら売るかを決める上でこの分析は重要だと思っています。

Amazon PharmacyとGoodRxのビジネスモデル

・GoodRx

大手のPBM(Pharmacy Benefit Managers/薬の卸みたいなもの?)と組んで、自前のアプリで複数のドラッグストアに置ける薬のディスカウント価格を表示させる。その上で、ディスカウント価格で購入するためのクーポンを自前アプリからダウンロードして使ってもらうことで、PBMから手数料を得るというもの。

このPBMは、大手3社を使っているそうで、その一つがExpress Scripts。全体の44%がExpress Scriptsからの売り上げとのこと。

・Amazon Pharmacy

自前のPharmacyサービスを持っており、Amazon上で薬を販売する。これは、2年前に753Mで買収したPillPackという会社が元になっている。Prime memberであれば、Amazonで薬を購入するときに保険適用価格と保険を適用せずにPrime memberとしてのディスカウントを適用した価格が表示される。保険を適用した上でディスカウントを適用することはできない。

このディスカウントのサービスはInside Rx, LLCという会社によって運営されており、Inside Rx, LLCはExpress Scriptsの子会社。

このほかに、Inside Rxのサービスであるdigital Rx saving cardを外部のPharmacyで提示することで、ディスカウントを受けれる。

なにが同じで何が違うのか

・ビジネスモデルの共通点

最大の共通点が、同じPBMであるExpress Scriptsを使っていること。

そしてこの点が、GoodRxにとっての最大の懸念点なのでしょう。結局ディスカウントレートはExpress Scriptsとの契約に左右されます。そのため、Buying powerがより強そうなAmazonの方が有利なレートを引き出せるし、たとえレートが一緒だとしても、自分のMarginを削ることでGoodRxより有利なディスカウントを設定するのではないかというもの。

・ビジネスモデルの相違点

Amazonは自前で薬も売ります。一方でGoodRxは自前では薬は売りません。つまりAmazonのビジネスモデルは、Prime memberだけが使えるAmazon薬局があって、さらにその会員カードを見せると他の薬局でもディスカウントを受けることができると。

ただし、ここが大きな違いですが、他の薬局との比較ができません。Amazon薬局で会計時に比較ができるのはあくまで、保険を適用した場合とAmazon薬局のディスカウントの比較です。

他の薬局でのディスカウントはその薬局に行って会員カードを見せて尋ねるまでわかりません。

GoodRxのすごいところは、他の薬局も含めたディスカウント価格の比較が自前アプリ上でできてしまうことです。

なお、Amazon Pharmacyの運営元であるInside RxのHPに行けば、Inside Rxが発行している会員カードが入手でき提携薬局でディスカウントが受けられます。Amazon Pharmacyとレートが一緒かはわかりませんが。

GoodRxのValu Proposition

ということで、GoodRxの優位性はディスカウントそのものではなく、様々な薬局を自前アプリ上で比較ができることです。Amazonの戦略というのは一貫していてそのサービス単体が赤字であってもAmazon上で買えるものを増やしてPrimeユーザーを増やすことです。そのため、Amazonの目的はあくまでAmazon Pharmacyで薬を買ってもらうことであり、さらに言うとそれをエサにPrimeユーザーを増やすことです。

そう考えると他の薬局でのディスカウントというのはおまけみたいなものということがわかります。実際、オンラインで事前に比較ができず店舗に行かないとディスカウント額がわからないのであれば、このサービスを使うメリットは薄いです。

せいぜい、GoodRxで調べて一番安い薬局に行き、そこで購入時にAmazon Pharmacyによるディスカウントとどちらが安いか再度比較するという感じでしょうか。ただ、そんなめんどくさいことするかなというのが感想です。

GoodRxにとっての脅威

ディスカウントにそこまで大きな違いが生まれるとは思えないので、Amazon Pharmacyを目当てにAmazon Primeに加入するとは考えにくいです。そのため、GoodRxが奪われる可能性があるユーザーはAmazon Primeに入っているユーザーとなります。ただし、ここで話になっているのは処方薬です。普通は病院で処方箋をもらったらその帰りに薬局に寄り薬を買うでしょう。その場合は、GoodRxで調べて、近場の一番安い薬局に行くというのが想定される行動です。

そう考えると、Amazon Pharmacyを使う人というのは以下のパターンに限定される気がします。

・オンラインで処方箋をもらい、かつ急ぎで薬を飲む必要がない人。

Amazonがオンライン診療も始めて処方箋もAmazonで受領できたら便利な気がしますが、今のところは他のオンライン診療を使う必要があります。

オンライン診療へのGoodRxのアプローチ

GoodRxは、2019年にHayDoctor(2017年創業)という会社を買収しています。このオンライン診療業界は百花繚乱という感じで様々な会社が乱立しています。一番大きいのは上場もしているTeladocですが、サービスに差をつけるのが難しい以上、勝者総取りのマーケットで知名度が最も重要であると思います。

それであれば、GoodRxとオンライン診療の相性は良さそうだと言えます。

Amazonもこのオンライン診療分野には興味を示しておりAmazon Careというサービスを従業員向けに試験的に始めているようです。従業員向けに試験的に始めるというのはAmazon goでもそうでしたので、いずれこのサービスも一般向けになるでしょう。知名度が顧客獲得に重要な要素である以上、オンライン診療分野ではAmazon Careに優位性がある気がします。

GoodRxのS-1ではあくまでHayDoctorを使った人が、薬を買う時にGoodRxを使うことにフォーカスしています。さらに、Third partyと組んでmail-orderサービスを立ち上げ、HayDoctorでオンライン診療を受けて処方箋をもらったら、そのまま薬の購入をオンラインで行い発送されるというフルサービスを提供するつもりのようです。おそらくAmazonもAmazon CareからAmazon Pharmacyというフルサービスは提供すると思われるので、GoodRxが薬の購入にフォーカスしてたとしても、オンライン診療を利用する人がAmazon Careに取られる懸念がある以上この点は競合する気がします。

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ただ、GoodRxはもう一つ GoodRx Telehealth Marketplaceという面白いサービスを始めています。先ほどオンライン診療サービスは百花繚乱と書きましたが、そのたくさんあるオンライン診療サービスを比較検索ができるサービスです。食べログとかのオンライン診療サービス版でしょうか。サイトを見てみると、29のオンライン診療サービスが参加しており、症状や受けたい診療科ごとに横断的に、薬の購入方法(郵送か薬局か)、保険適用、場所などで検索ができ、概算の診療代も表示されます。

さらに、GoodRxのクーポンが適用できるサービスとそうでないサービスが分かれていますが、ここら辺はよくわかりません。HPを読む限り、処方箋はオンライン診療サービスから直接薬局に送られるらしいので、クーポンが使えるサービスでないと薬局でディスカウントが受けられないのでしょうか。

結論

結局、競合するのはオンライン診療→郵送で薬を買う人なわけです。病院に行った上で郵送で薬を買うという行動は、やはり想定しにくいです。そして薬局で薬を買うのであれば、比較が容易にできるGoodRxを使うことが想定されます。

そして、オンライン診療に期待するのは世代別に、ミレニアム世代ではメンタルヘルスの問題、中年世代では緊急や急性期の健康問題、高齢者世代では慢性疾患の管理や普段飲んでいる薬の処方箋更新とのことです。

であれば、薬の処方という意味では高齢者世代がメインターゲットとなりますが、相対的に高齢者世代でオンラインに適応できるのは少数でしょう。

こう考えると、現時点ではGoodRxの優位性は脅かされていないのではないかと思います。

たが、GoodRxがオンライン診療の分野でどれくらい成長できるのかは不透明だと思います。特にAmazonが乗り出してきたら完全に競合するでしょう。GoodRx Telehealth Marketが育って、ここ経由でオンライン診療サービスを利用したら、それがどこであってもGoodRxのクーポンを利用して薬を購入するということになれば、面白いとは思います。

最後に、Petの薬ですがAmazon Pharmacyは完全適用外ですが、GoodRxのクーポンは対応しているようです。Petの薬にどれくらいマーケットがあるのかわかりませんが、ここら辺も差別化要因になり得ると思います。